ニュートリノ (英: neutrino) は、素粒子のうちの中性レプトンの名称。中性微子とも書く。電子ニュートリノ・ミューニュートリノ・タウニュートリノの3種類もしくはそれぞれの反粒子をあわせた6種類あると考えられている。ヴォルフガング・パウリが中性子のβ崩壊でエネルギー保存則と角運動量保存則が成り立つように、その存在仮説を提唱した。「ニュートリノ」の名はβ崩壊の研究を進めたエンリコ・フェルミが名づけた。フレデリック・ライネスらの実験により、その存在が証明された。
| フェルミオン | 記号 | 質量** |
|---|---|---|
| 第一世代 | ||
| 電子ニュートリノ | νe | < 2.5eV |
| 反電子ニュートリノ |
|
< 2.5eV |
| 第二世代 | ||
| ミューニュートリノ | νμ | < 170keV |
| 反ミューニュートリノ |
|
< 170keV |
| 第三世代 | ||
| タウニュートリノ | ντ | < 18MeV |
| 反タウニュートリノ |
|
< 18MeV |
ニュートリノは電荷を持たず、
のスピンを持つ。また、質量は非常に小さいが、存在することが確認された。
ニュートリノには電子ニュートリノ (νe)、ミューニュートリノ (νμ)、タウニュートリノ (ντ) の3世代とそれぞれの反粒子が存在する。これらは電子、ミュー粒子、タウ粒子と対をなしている[注釈 1]。
ニュートリノは強い相互作用と電磁相互作用がなく、弱い相互作用と重力相互作用でしか反応しない。ただ、質量が非常に小さいため、重力相互作用もほとんど反応せず、このため他の素粒子との反応がわずかで、透過性が非常に高い。
そのため、原子核や電子との衝突を利用した観測が難しく、ごく稀にしかない反応を捉えるために高感度のセンサや大質量の反応材料を用意する必要があり、他の粒子に比べ研究の進みは遅かった。
電荷を持たない粒子であるため、中性のパイ中間子のようにそれ自身が反粒子である可能性がある。ニュートリノの反粒子がニュートリノ自身と異なる粒子であるか否かは現在でも未解決の問題である。
アルファ崩壊の場合、アルファ粒子(アルファ線)と新しく出来た原子核の質量との合計は、崩壊前の原子核の質量よりも小さくなる。これは、放出されたアルファ粒子の運動エネルギーが、崩壊前の原子核の質量から得られているためである。
ベータ崩壊の場合は、運動エネルギーの増加が質量の減少より小さかったため、研究者の間で混乱が生じた。ニールス・ボーアは放射性崩壊現象ではエネルギー保存の法則が破れると主張した。
一方、ヴォルフガング・パウリは、エネルギー保存の法則が成り立つようにと、β崩壊では中性の粒子がエネルギーを持ち去っているという仮説を1930年末に公表した。また、1932年に中性子が発見されたのをきっかけに、エンリコ・フェルミはベータ崩壊のプロセスを「ベータ崩壊は原子核内の中性子が陽子と電子を放出しさらに中性の粒子も放出する」との仮説を発表した。また、質量は非常に小さいか、もしくはゼロと考えられた。そのため、他の物質と作用することがほとんどなく、検出には困難を極めた。
1953年から1959年にかけて行われた フレデリック・ライネスとクライド・カワンの実験により、初めてニュートリノが観測された。この実験では、原子炉から生じたニュートリノビームを水に当て、水分子中の原子核とニュートリノが反応することにより生じる中性子と陽電子を観測することで、ニュートリノの存在を証明した。
1962年、レオン・レーダーマン、メルヴィン・シュワーツ、ジャック・シュタインバーガーらによってνeとνμが違う粒子であることが実験で確認された。これは、15 GeV の高エネルギー陽子ビームを使ってパイ中間子(π)を作り、ミュー粒子 (μ) とミューニュートリノ (νμ) に崩壊してできたミューニュートリノを標的に当てた。この結果、標的で弱い相互作用によってミュー粒子は生じたが、電子は生成されなかった。
例えば光子は質量が 0 である理論的根拠が存在するが、ニュートリノについては質量が有限値を持ってもかまわない。が、この粒子は弱い相互作用しかしないこともあって、その質量が観測できず、質量を持たないとするのが一般的であった。
ニュートリノ振動が起こるためにはゼロではない質量が必要となる[1]。この現象は1957年にブルーノ・ポンテコルボにより提唱された。この理論は、k中間子振動から類推された。彼は、その後10年で真空の振動理論の現代的な数学による定式化に取り組んだ。1962年、坂田昌一・牧二郎・中川昌美がニュートリノが質量を持ち、ニュートリノが電子・ミュー・タウの型の間で変化するニュートリノ振動を予測した。
この現象について、1998年6月にスーパーカミオカンデ共同実験グループは、宇宙線が大気と衝突する際に発生する大気ニュートリノの観測から、ニュートリノ振動の証拠を99%の確度で確認した。また、2001年には、太陽から来る太陽ニュートリノの観察からも強い証拠を得た[注釈 2]。
ただし、ニュートリノ振動からは型の異なるニュートリノの質量差が測定されるのみで、質量の値は解らない。が、これに先立つ1987年2月23日午後4時35分小柴昌俊による15万光年離れた大マゼラン星雲の超新星SN 1987Aからの電子ニュートリノの観測時刻が光学観測との間で理論的に有意な差を観測できなかったことから、極めて小さな上限値(電子の質量の100万分の1以下)が得られており、共同研究チームは3種のニュートリノの質量を発表している。
その後、つくば市にある高エネルギー加速器研究機構 (KEK) からスーパーカミオカンデに向かってニュートリノを発射するK2Kの実験において、ニュートリノの存在確率が変動している状態を直接的に確認し、2004年、質量があることを確実なものとした。
ニュートリノの質量が有限値を持つことは理論研究に大きな影響を与える。まず問題になるのは、これまで各種の提案がされてきた標準理論のうちの一部はニュートリノの質量が 0 であることを前提としている。それらの理論は否定される。また、ニュートリノ振動は、各世代ごとに保存されるとされてきたレプトン数に関して大幅な再検討を促すことになる。
また電磁相互作用がなく-すなわち光学的に観測できず-、またビッグバン説は宇宙空間に大量のニュートリノが存在することを示すことなどから、暗黒物質の候補のひとつとされていたが、確認された質量はあまりに小さく大きな寄与は否定された。
小出義夫[注釈 3]による「荷電レプトン質量公式(小出公式)」(1982)は、C.Brannen(2006)によりニュートリノにも適用できるとの指摘があり、検証が進められている。
2011年9月23日CERNで特殊相対性理論に反し光速より速いという実験結果が発表された[2][3]。「国際研究実験OPERA」のチームが、人工ニュートリノ1万6000個を、ジュネーブのCERNから約730km離れたグラン・サッソのイタリア国立物理学研究所研究施設に飛ばしたところ、2.43ミリ秒後に到着し、光速より60.7ナノ秒(1億分の6秒、ナノは10億分の1)速いことが計測された。1万5000回の実験ほとんどで同じ結果が示された。[4][5]
OPERAチームはこの結果を発表するのに数ヶ月の内部討論を重ね、実験結果の誤りを探した。光速より早い物質が存在しないことを証明する特殊相対論は実験と理論でしっかり確立された理論であり、この実験結果は誤りだと考えられたからである。しかし内部討論では誤りを発見できず、科学界での検証を呼びかけた。OPERAは声明の中で「この結果が科学全般に与える潜在的な衝撃の大きさから、拙速な結論や物理的解釈をするべきではない」としている[6]。
11月18日、OPERAは、ニュートリノビームの長さを短くした再実験によってもほぼ同様の結果が見られたと発表した[7][8][9][10]。ただ時間情報は前回と同様GPSを使ったとしている。
原論文[3]によると、光速度をc、ニュートリノ(平均エネルギー17ギガ電子ボルトのミューオン・ニュートリノ)の速度をVとすると、
(0.28は統計誤差、0.30は系統誤差。)
である(有意水準は6.0σ)。
これから、
となり、
と比べて、7435 m/s だけ速いことになる。
なお、 統計誤差と系統誤差を考慮すると、
光速cより、5696 m/s 速い。
光速cより、9174 m/s 速いことになる。これは環境の影響や考え得る測定誤差[注釈 4]をはるかに超える値であるとされた。
この実験結果に対する懐疑的意見もある。小柴昌俊が行ったSN 1987Aの観測では光とほぼ同時(発生源からの距離に比して)に届いたニュートリノしか確認されておらず、整合しない。もしニュートリノがOPERAの実験結果と同じくらいの速度であれば、ニュートリノは超新星からの光学観察時刻の八年前に到着しなければならない。2007年にフェルミ研究所におけるMINOS実験[11]で同様の結果が発表されているが、誤差が大きかったという。そのため、ニュートリノではなく未知の性質の発見を表しているかどうか注目されている。また、日本がスーパーカミオカンデで人工ニュートリノ飛行実験[12]をしていることから、日本の実験結果も注目されている。
10月6日、CERNのホイヤー所長、高エネルギー加速器研究機構の鈴木厚人機構長、フェルミ研究所のオッドーネ所長らはジュネーブで記者会見し、OPERA実験の超光速の結果に対し懐疑的立場を示した。ホイヤー所長は「1つの方法による1つの実験結果にすぎない」とし、CERNとOPERAを切り離す立場をとった。今後フェルミ研究所で追加実験を行い、数ヶ月後に結果が出る見込みという。特にGPSによる時計あわせが疑われている[13][14]。
11月19日、グランサッソ研究所の別の実験チーム「ICARUS」が、OPERAの結果を否定する論文を発表した。それによると、実験では光速で移動する粒子と同じエネルギースペクトルを示したという。グラショウ理論によれば、もし超光速ならエネルギーをほとんど失っているはずだという[15][16][17][18][19][20]。
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